ボールミルのスケールアップをやさしく解説

カテゴリ: 化学工学, 材料

ボールミルは、粉体の微粉砕や分散で広く使われる代表的な装置です。ラボ機ではうまく粉砕できても、実機にそのまま条件を移すと、同じ粒子径にならないことがよくあります。そこで重要になるのが、ボールミルのスケールアップです。

私の経験では、ボールミルのスケールアップは次の2点を整理すると、かなり見通しよく考えられます。

  • どの粉砕速度式を使って、粒子径と投入エネルギーの関係を表すか
  • どの動力推算式を使って、ミル条件と投入エネルギーの関係を表すか

上記を組み合わせることで、運転条件と運転条件の相関をつかみやすくなります。本記事では、この2つを軸に、ボールミルのスケールアップの考え方を初心者向けに分かりやすく説明します。

1. エネルギーと粒子径の相関式(粉砕速度式)

ボールミルでは、同じ材料・同じ系の条件であれば、投入エネルギーと代表粒子径の間に経験的な相関を置けることがよくあります。ここでいう粒子径は、d50やd90などの代表粒子径を使うと分かりやすいです。大切なのは、比較するときに同じ粒子径指標で統一することです。

代表的な粉砕速度式として、Kickの式、Bondの式、Rittingerの式があります。初期粒子径を d0、時刻 ttにおける粒子径を d、時刻 tまでに投入したエネルギーを E とすると、簡略化した形で次のように表せます。

Kickの式

kE=lndlnd0-kE=\ln{d} – \ln{d_0}

Kickの式は、粒径比が同じなら必要エネルギーも同じという考え方に基づいています。比較的粗い粒子の粉砕を考えるときに使いやすい式です。

Bondの式

kE=1d01d-kE=\frac{1}{\sqrt{d_0}}-\frac{1}{\sqrt{d}}

Bondの式は、実務上もっともよく使われる粉砕速度式の1つです。多くの粉砕データに比較的よく合いやすく、ボールミルのスケールアップで最初に検討しやすい式です。

Rittingerの式

kE=1d01d−kE=\frac{1}{d_0}−\frac{1}{d}

Rittingerの式は、新しくできる表面積に必要エネルギーが比例するという考え方に基づいています。微粉砕のように表面積の増加が重要な場面で使われやすい式です。

Lewisの一般式

これらを一般化した式として、Lewisの式があります。

kdE=dxnkdE=−dx^{n}

この式では、n の値によって各粉砕速度式に対応します。

  • n=1のとき Kickの式
  • n=1.5のとき Bondの式
  • n=2のとき Rittingerの式

実際のボールミル条件検討では、最初から1つの式に決め打ちするより、実測データをそれぞれの式の形でプロットして、どれが最も直線に近いか確認するのが安全です。

たとえば、横軸を時間、縦軸を

  • ln⁡ d(Kick)
  • 1/√d​(Bond)
  • 1/d(Rittinger)

として整理すると、どの粉砕速度式が合いやすいか判断できます。

例として住友化学の公開資料に基づいた計算を行います。横軸に時間、縦軸に各粉砕速度式における粒子径の変形値をとりプロットした結果が下記の図です。傾きが粉砕速度定数 k に相当します。この条件ではBondの式やRittingerの式が相関係数が高いことから、これらの式を使用するのが妥当そうです。

https://www.sumitomo-chem.co.jp/rd/report/files/docs/20070203_d6c.pdfのデータを用いて近似直線を作成。

一般にはBondの式が使いやすいことが多いですが、材料や運転条件によって適合性は変わります。したがって、粒子径の大きい範囲から小さい範囲までデータを取り、もっとも当てはまりのよい式を選ぶことが重要です。

2. 臨界回転数

ボールミルを理解するうえで欠かせないのが、臨界回転数です。臨界回転数とは、ボールが重力で落下せず、ミル壁面に張り付いたまま回転してしまう回転数のことです。

このときは、粉砕に必要な衝突やせん断が弱くなるため、必ずしも効率の良い運転にはなりません。むしろ、ボールミルでは臨界回転数に対する相対回転数が重要な操作因子になります。

臨界回転数 NcN_cNc​ は、一般に次のように表されます。

Nc=42.3DdbNc= \frac{42.3}{\sqrt{D-d_b}}

ここで、

  • Nc:臨界回転数 [rpm]
  • D:ミル内径 [m]
  • db​:ボール径 [m]

です。

ボール径がミル径に対して十分小さい場合には、近似的に

Nc=42.3DNc=\frac{42.3}{\sqrt{D}}

と書かれることもあります。

また、実際の回転数を N とすると、臨界回転数に対する相対回転数 ϕ は

ϕ=NNcϕ=\frac{N}{N_c}

で表されます。

実運転では、通常は臨界回転数そのものではなく、その何割かで運転します。つまり、スケールアップではミル径だけでなく、臨界回転数に対する相対回転数をどう維持するかが重要になります。

3. エネルギーとボールミル運転条件の相関式(動力推算式)

ここまでで、粒子径と投入エネルギーの関係を示す粉砕速度式を説明しました。次に必要なのは、そのエネルギーが、ボールミルの運転条件とどのように結びつくかです。

この関係が分かれば、任意のミル径、回転数、充填率でどの程度のエネルギーが与えられるかを推算できます。そして、そのエネルギーを粉砕速度式に代入すれば、粒子径の変化を予測しやすくなります。

まず、単位時間あたりに与えるエネルギー、すなわち動力を P とします。また、ここでは比エネルギーとして扱いやすくするため、スラリー体積 V で割って考えます。すると、時刻 t までの投入エネルギーは

E=PVtE=\frac{P}{V} t

と書けます。

Liddell, K. S., & Moys, M. H. (1988). The effects of mill speed and filling on the behaviour of the load in a rotary grinding mill. Journal of South African Ins. Min. Metall., 88, 49–57.

上記の論文で紹介されている動力推算式として下記のものがあります。

Hogg and Fuerstenauの式

P=3.627ρbϕLD2.5sin3θsinαP=3.627ρ_bϕLD^{2.5}\sin⁡3θ\sin⁡α

Bond型の式

P=12.262ρbϕLD2.3J(10.937J)(10.12910ϕ )P=12.262ρ_bϕLD^{2.3}J(1−0.937J)(1−\frac{0.12}{9−10ϕ}\ )

Harris系・Liddell & Moysの式

PρbϕLD2.5J(1J)P∝ρ_bϕLD^{2.5}J(1−J)

ここで、

  • ρb​:ボールの見かけ密度
  • ϕ:臨界回転数に対する相対回転数
  • L:ミル幅
  • D:ミル径
  • J:ボール充填率

です。

文献ごとに係数や記号の定義は多少異なりますが、重要なのは、動力が何に強く依存するかです。いずれの式でも、動力はおおむね

  • ボール密度 ρb
  • 相対回転数 ϕ
  • ミル幅 L
  • ミル径の 2.3~2.5 乗
  • ボール充填率 J
  • 空き率に対応する (1−J)

に依存することが分かります。

実用上は、Harris系やLiddell & Moys系の簡略形は構造が分かりやすく、スケールアップの一次近似として扱いやすいため、おすすめです。

特に相似形のミルでスケールアップする場合、ミル体積は

Vmillπ4LD2V_{\text{mill}}∝\frac{\pi}{4}LD^2

と書けます。

さらに、相似条件として

  • ボール密度 ρbは一定
  • ボール充填率 J は一定
  • ミル形状は相似

と仮定すると、比動力は一次近似として

PVmillϕD0.5\frac{P}{V_{\text{mill}}} \propto \phi D^{0.5}

と表せます。

つまり、相似条件下では、比動力は相対回転数に比例し、ミル径の0.5乗に比例すると考えられます。言い換えると、同じ相対回転数で比較した場合、ミル径が大きいほど、単位体積あたりに与えられるエネルギー速度は大きくなる傾向があります。

この D^0.5 が、ボールミルのスケールアップで重要なスケールファクターの1つになります。

ただし、これはあくまで相似条件が十分成り立つ場合の一次近似です。実際には、ボール径、スラリー濃度、粘度、ライナー形状、原料粒度分布などの影響も受けるため、最終的には確認実験で補正するのが安全です。

4. 粉砕速度式と動力推算式の合体

ここまでの内容を組み合わせると、ボールミルのスケールアップはかなりシンプルに整理できます。
つまり、粉砕速度式で「粒子径とエネルギー」を結び、動力推算式で「エネルギーと運転条件」を結べば、最終的に粒子径と運転条件の関係式が作れます。

たとえば、粉砕速度式としてBondの式、動力推算式として簡略化したHarris系の式を使うと、

kρbϕLD2.5J(1J)Vt=1d01d−k\cdot\frac{ρ_bϕLD^{2.5}J(1−J)}{V}\cdot t=\frac{1}{\sqrt{d_0}}−\frac{1}{\sqrt{d}}

のように表せます。

この式の重要な点は、粉砕対象ごとの差を、係数 kk にまとめて表せることです。言い換えると、ラボ機で粉砕試験を行って k を求めておけば、他の回転数やミル径でも、粒子径の変化を予測しやすくなります。

もちろん実際には、k が完全な定数とは限りません。たとえば次のような要因で見かけの kk は変わる可能性があります。

  • ボール径やボール径分布
  • スラリー濃度
  • 粘度
  • 原料の粒度分布
  • ライナー形状
  • 滞留時間分布

そのため、理論式で一次推算し、最後は少数の確認実験で補正するという流れが、実務では最も使いやすいです。

5. まとめ

本記事では、ボールミルのスケールアップを、粉砕速度式動力推算式の2つの視点から整理しました。

まず、Kickの式、Bondの式、Rittingerの式を使うことで、粒子径と投入エネルギーの関係を表せます。次に、臨界回転数や相対回転数を考慮した動力推算式を使うことで、運転条件と投入エネルギーの関係を表せます。そして最後に、この2つを組み合わせることで、粒子径とボールミル運転条件の関係を記述できます。

実務上は、次の流れで考えると進めやすいです。

  1. ラボ機で粒子径の経時変化を測定する
  2. Kick、Bond、Rittingerのどの粉砕速度式が合うか確認する
  3. 動力推算式を使って比動力を見積もる
  4. 粉砕速度式と組み合わせて、実機での到達粒子径や必要時間を予測する

初心者の方は、まずBondの式で粒子径とエネルギーを整理し、相対回転数とミル径を使った簡略動力式でスケールアップを考えるところから始めると分かりやすいでしょう。これだけでも、ボールミルのスケールアップはかなり整理して考えられるようになります。